Technologies for Runners

走りを支える検証とデータ。
アシックスの研究開発が反映された
ランニングアパレルの現在地。

中編「スピードを引き出すための構造と思考」

Edit : Tsuji, Hiroshi Yamamoto

INFO

走りのスタイルや目標が多様化するなか、ランニングアパレルに求められる役割も変わりつつあります。スピードを追求するのか、安定性を重視するのか。いま必要とされているのは、目的に応じた選択肢なのです。〈アシックス(ASICS)〉は、長年にわたる研究データと検証をもとに、用途別に最適化を目指したアパレルを開発してきました。今回の企画では、商品企画担当・藤田恭子さんに取材を敢行。多くのランナーをサポートしてきたブランドの技術的背景とプロダクトの狙いを、前・中・後編の3回に渡って紐解いていきます。

藤田恭子

2013年に〈アシックス〉に新卒入社。アパレル調達部に配属され、キャリアの初期3年半は開発部にて商品開発を担当。その後、プロダクトマネジメント部へ異動。CPS(Core Performance Sports)をはじめ、複数競技のアパレル開発を経て、現在はトラック&フィールドを含むアスリート向けプロダクト、および機能アイテムを中心に商品企画を行っている。

タイツをギアとして見る傾向が強くなっている。

MOTION MUSCLE SUPPORTスピードポケットタイツ ¥11,000(税込)

前編にて、「MOTION MUSCLE SUPPORTスピードポケットタイツ(以下、MMSスピードタイツ)」はスピードを重視して開発された、という話がありました。その背景にはどんな想いがあったのでしょうか?
藤田 :

日本のランニング市場において、シリアスランナーの需要に応えるタイツが、開発当時なかったと考えています。つまり、しっかりと機能性を持ったもので、なおかつニーズに合わせたものを〈アシックス〉のオリジナリティを加えてお客さまに届けたいと思ったんです。

マーケットではスタビリティ系のものが多い一方、スピードに特化したものは珍しいですよね。
藤田 :

いま、そのニーズがものすごく増えているんです。10年前はランニングを楽しむためのサポートタイツが主流でしたが、フルマラソンでサブ3を目指すシリアスランナーが増えたことや、スタイルとしてタイツ1枚で走ることが一般化してきたことによって、こうしたタイツをギアとして見る傾向が強くなりました。そうした需要に対して“スピード”というキーワードは響くし、〈アシックス〉との親和性も高いと感じたのが大きな理由です。

「MMSスピードタイツ」は、脚を振り上げる運動を効率的にサポートすることによってピッチ数を上げ、結果としてスピードに繋がることを目的としていますよね。
藤田 :

一見するとシンプルなタイツに見えますが、よく見ると網目状のプリントがフロント面に施されています。このプリント技術が特殊で、生地に“染み込むような手法”で表面がフラットな形状になっているんです。

いままでは生地の上にプリントが載るようなイメージですが、それが従来とは異なるところなんですね。
藤田 :

そうですね。「MMSスピードタイツ」は生地とプリントが一体化するような感覚です。それによって生地に固さが生まれ、伸縮性が強化されます。つまりキックバックが強くなるという効果が得られるんです。一方で背面にはプリントを施さず、脚を振り上げるときの違和感を緩和しています。その前後差が重要で、足を後ろに出しているときにフロント面の固い生地が伸び、振り上げたときにギュッと縮むという構造になるので、脚を前に出しやすくなるんです。

この染み込みプリントというのは、スポーツウエアでよく使われる技術なんですか?
藤田 :

ゼロではないですが、使っているところは少ないですね。 (プリントを含めた)生地のストレッチ性を利用して脚の振り上げをサポートするというのが〈アシックス〉の特徴で、私はまだ他社でトライしているという話はまだ聞いたことがありません。

研究所と検証を重ねながら、「アシックスとしてベスト」という確証を得た。

脚の動きを早くしてスピード向上につなげるというのは、論理的にはすごくイメージしやすいですが、そうした製品がいままでなかったのはどうしてなんですか?
藤田 :

それを実現する技術を、タイツの分野でようやく開発できたということですね。わかりやすい仮説をどうやってタイツに落とし込むかというのが難しいポイントなんです。それこそ開発当初はウエストに使うゴムベルトを足に巻き付けたりしながらプロトタイプをつくっていました。だけどそれだと機能的に不十分だし、はき心地も悪くて製品化は難しかった。そうした構造をどうやってはけるものにするかというのが、開発にあたって一番難しかったところなんです。

それをこの網目状のプリントで実現したと。
藤田 :

そうですね。「アシックススポーツ工学研究所」のメンバーとディスカッションを重ねた部分です。キックバックを強くするには生地を固くして、それを戻りやすくするのが理論上の要点なんですが、全面にプリントをしてしまうと固くなりすぎてしまい、はき心地も悪くなってしまう。実際に生地を固くしすぎてしまって、今度はキックバックしなくなってしまったという結果もあったんです。

そうした結果を踏まえて効果的なプリントの形状を模索したわけですね。
藤田 :

箇所によって網目が密な部分と、そうでない部分がありますよね。研究所のメンバーと何度も検証をしながら、この形状がはき心地を担保しながら、いちばん効果的に脚を上げられるという結果に辿り着きました。

大腿筋の形状に合わせて網目が組まれているようなイメージですか?
藤田 :

そうですね。太腿の両脇は網が薄いのに対して、中心は濃くなっています。つまり筋肉量が多いところはプリントの密度を濃くしてコンプレッションをかけ、伸縮性を出すような形です。もちろん筋肉が多いところにプリントがあればいいという単純な話ではないのですが、研究所の方々と検証を重ねながら、結果的に「これがアシックスとしてベスト」という確証を得て製品化していますね。

納得できるもの開発した実感がある。

開発にはどれくらいの時間がかかったんですか?
藤田 :

大体2年くらいです。通常のプロセスでは1年半が限度なのですが、このプロダクトに関しては通常よりも半年多い時間をかけました。

タイムリミットを超えて開発を続けたということは、それだけ手応えがあったということですよね。
藤田 :

1年半である程度は見えていたんです。ただ、最後の裏付けという部分でもう半年かけたかった。そのあいだにプリントの配置を変えて、最終チェックをしていたんです。

それでようやく確証を得たと。
藤田 :

最初の1年半で何度もテストを重ねてポジティブな結果は出ていたんです。だけど、最後の最後で「これでいいのか?」というディスカッションがあって。やっぱりいちばんいい状態で世に出すべきだという判断をして、念には念を入れたという形です。

こちらのカラーは25AWのもの。現在は色展開を変更しています。

リリース後、実際にはかれた方々の評価はどうでしたか?
藤田 :

すごくいい反応を得られました。私たちがターゲットとするサブ3.5や、サブ3.5を目指す方々からすごくいいフィードバックをいただいて。はき心地やコンプレッション具合、脚を振り上げる感覚において、ポジティブな意見が多数ありましたね。私自身もはいて試しましたが、納得できるもの開発した実感があります。

既にリリースから時間も経過していますが、アップデートも続けているのでしょうか?
藤田 :

ネクストモデルを現在開発中です。そちらも良い製品になると思いますので、是非ご期待ください。

2026.02.13

走りを支える検証とデータ。
アシックスの研究開発が反映された
ランニングアパレルの現在地。

中編「スピードを引き出すための構造と思考」

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